巻頭インタビュー

子どもが幸せな人生を送るため 親にできることとは

京都教育大学名誉教授 桶谷 守先生

『桶谷守先生  プロフィール』
中学校教師を経て、京都市教育委員会生徒指導課首席指導主事、担当課長、生徒指導課長、京都市教育相談総合センター所長を歴任。

  • 2011年より京都教育大学教育教授、及び京都市教育相談総合センター参与。文部科学省「暴力行為のない学校づくり研究会」調査研究協力委員。日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理分野専門職大学院評価チーム委員」を歴任。
  • 2013年より滋賀県大津市のいじめ問題について第三者委員として活動し、その後教育長として大津市のいじめ問題に取り組む。
  • 現在は京都教育大学名誉教授。大津市教育委員。日本生徒指導学会全国理事。文部科学省「生徒指導提要作成委員」。

 学校でのいじめ・不登校問題に長年取り組む桶谷守先生。大津市のいじめ自殺問題の第三者委員会の委員として活躍され、より視点を広げて子どもたちの問題克服に取り組んでおられます。そんな桶谷先生に、子どもが将来つらい目に遭わないためにはどうすればいいのか、子どもが小さい頃からの親の子育てで大切なことを伺いました。

いじめ・不登校と愛着

 幼児期にどれだけ愛情を受けたかで、その後の人生が変わります。お父さん、お母さんが子どもの顔を見て、愛情を持って、夫婦でどうしていこうか話し合っていくことが子育てには基本的に必要だと思います。
 文部科学省によると、小中高のいじめは約54万件。不登校や小学生の暴力行為、自殺者も前年より増えました。「何でやろな」と考えた時に元をたどると、幼児期の子どもの育ちがどうだったのか、が出てきます。
 発達の課題がある、発達障害であるという子どもがいますが、特に注目したいのが愛着障害です。あふれるばかりの愛情で育っていく幼児期に、親の問題があったり、子どもの発達の課題による育ちにくさがあったり。そのためなかなか愛情を持って育てられなかった結果、障害とは言えなくても愛着の課題を抱えて大きくなる子どもが相当数います。
 愛着障害には、理由もなく落ち込んだりイライラしたりする、眠れなかったり食欲がなくなったりといった症状があります。身体が平均より小さい、風邪を引きやすい、体調を崩しやすい、ものや人を噛むといった攻撃性、自分に自信がないことも。それが将来、いじめや不登校に関連するのだろうと思います。


『回復力=レジリエンス』が生まれる子育て

 私の専門は思春期の子どもの課題です。小学生や中学生は、家の中で愛情たっぷりに、それも一方的なものではなくて、子どもが欲する時に親が褒めて抱きかかえることで、だんだん自立していけます。もちろん大変な時ありますが、親が話し合いながら乗り越えていくと、子どもはやはりすくすく育つ。そして打たれ強い『回復力=レジリエンス』が育ちます。
 近年さまざまな災害で被災された方々が、ボランティアなどいろいろな人から支えられ、「もうっぺんやろう」と立ち直っていかれます。その回復力がどこから生まれるのかというと、基本は『幼児期の親からの支え』だと思います。
 子どもが成長していく時には、必ず困難に出会います。例えば、行きたい学校に進学できなかっ。部活動で試合に負けた。その時には悲しくて辛いですが、自暴自棄にならず、それを乗り越えて、回復していく力がレジリエンスです。親から愛情を注がれて育った子にはその力があると思います。いかに親からの愛着、愛情が大きいのでしょうか。

ベビースマイルに癒されて

 赤ちゃんは夜中に泣きますね。お母さんは睡眠時間を削って、おっぱいをあげたりおむつを替えたりします。お父さんは仕事で疲れていても、それをほったらかしにせず、しっかりと愛情をかけた方がより可愛い子に育ちます。
 生後2カ月の孫は、あやすと独特の顔をします。ベビースマイル、あの微笑みに惹きつけられます。眠いし辛いし子育ては大変だけど、その微笑みで癒されて、抱きしめて可愛がる。そういう親との心の交流をベースに子どもは育っていくのだと思います。

子どもが寝た後に話し合いを

 子どもが寝た後、夫婦で子どもの話をしてほしいですね。親の価値観は自分の育ちからくるので、夫婦で違います。話し合いをしないとそのままになってしまいます。
 勉強や習い事だけではなく、例えばクリスマスに自転車が欲しい時。親は買ってやりたくても、子どもが辛抱して、努力し、苦労をして獲得することを大事にする。どうしたらいいか子どもにしっかりと考えさせ、お年玉で足りなければ、犬の散歩で50円、庭掃除で50円など約束します。中身は家によって違うと思いますが、話をして子どもに与えていくことが大事です。夫婦がそろって子育てに参画し、父親の役割、母親の役割を果たしてほしいものです。

男性の育児休暇を

 大津市の教育長時代、実力のある男性から「半年間の育児休業を取り、周りに広げていきたい」という相談があり、大いにやれと背中を押しました。彼が復帰してきた時、仕事の仕方が一皮向けていました。生き生きした顔で「いっぱい子どもから吸収したので頑張ります」と子育てに自信を持って戻りました。
 きちんと子育てしてきた人の仕事ぶりは、それだけ意欲的です。人となり、人間性も変化しています。
 これからは企業も制度を広げてほしいです。生産性で利益を上げるのではなく、社会貢献、そして障害者雇用も含め一人ひとりを大事にした考えの中から企業としての値打ち、価値が生まれるのだと思います。

イクメンが当たり前に

 小さい頃から、イクメンが当たり前だと随分違うと思います。男性の育児休暇が取りにくい、女性が子どものことで休めない現実がまだまだあります。仕事をしながら子育てするのが難しい。晩婚化、高齢出産が増えていますが、子どもが増えることは日本という国が豊かになること、子どもが減ることは国が痩せていくことでもあります。
 周りが子育て世代を盛り立てながらしっかりと役割を担うシステム、仕組みを作らなければなりません。長い時間働く人が偉くてそうでない人が偉くないといった価値観を変えていかないと。
 今、大津市教委でAIを使ったいじめ分析プロジェクトのリーダーをしていますが、AIにはできない人間の仕事が子育て、教育です。人と人との交流、関わりは人ならではのこと。そこを大事にする環境づくりをしていきたいです。