
小学生少年探偵団結成。迷いインコの目撃情報を入手せよ!
クラスメイトQ
「俺、家の前の田んぼでホワイト見たで!他の鳥とエサ食べに来てたで!」
にぎやか3年2組(あっちゃんのクラス)に衝撃が走る。
【前回までのあらすじ】
我が家にインコの「ホワイト」がやってきて、小3息子のあっちゃんの生活は一変。
大変だけど心温まる毎日。ところがある日、ホワイトが失踪して…。
迷いペットは時間との勝負
ペットを買うと勧められるペット保険。病気のときはもちろん、なんと迷いペットを探してくれる特典がある。
ホワイトが脱走した日の夜。
夫はさっそく電話をしたが、なんと捜索開始は3日後!?迷いペットは想像していたより多いらしい。
親戚はもちろん、ママ友からちょっとお知り合い程度のママさんまで、私は文明の利器(LINE)を利用して、ホワイト脱走の経緯と写真を送りまくった。
意味あるんか?という夫の疑わしげな視線。
いつも通りに過ごしているように見えるあっちゃんは、おそらく感情が追いついて来ていない。
「ホワイトは友達が欲しいみたいやったから、楽しんでる気もするね!」
と、万が一に備えて子どもたちに予防線をはる私。
子どもたちを寝かしつけた静かな寝室には、えちゃまん(小1妹)の苦しそうな寝息とLINEのバイブ音が鳴り響く。
「保健所には連絡した?」
「ペット掲示板があるよ!」
「迷い鳥のチラシ作ったら!?」
「チラシならスーパーに貼るよ!」
みんな思い思いにアドバイスをくれる…ありがたい。
チラシがあればいいんやろ!と、速攻で迷い鳥のチラシを作ってくれたのは1番下の従姉妹。熱を出したえちゃまんがかわいそうや!と、社会進出してまだ間もないのに、貴重な日曜日の夜に速攻で仕上げてくれた。
学校の連絡帳にも事の経緯を記入。「印刷したチラシをみんなに見せて欲しい」と、担任の先生にお願いする。
翌朝、時間の経過とともに膨らみ続ける不安を抑え込み、「みんな協力してくれてるから大丈夫!」と、笑顔であっちゃんを学校へ送り出した。
小学生少年探偵団結成
朝の登校班のときも、3年2組に入ってからも、子どもたちはホワイトの話で持ちきりだ。
元来あっちゃんの性格がおしゃべりなこと、連絡をしたママたちが子どもに経緯を説明してくれたこと、担任の先生が気さくなこともあいまって情報が拡散。いろいろな話が交錯する。
「登校中に探しながら来たよ!」
「電柱におった気がする!」
そんな中、クラス一大柄で力持ちの男の子Q君が、
「俺、家の前の田んぼでホワイト見たで!他の鳥とエサ食べに来てたで!」
と言い放ったものだから、クラスは騒然とした。
ボールを投げれば小学校の屋上まで届くQ君は、実はぬいぐるみが大好きな心優しい少年である。あっちゃんの仲良し4人組メンバーの1人で、仲間が認める優しさNo.1男子。ちなみにあっちゃんは、最下位。ゴーイングマイウェイな彼を、周りの友人たちは「あっちゃんやからなぁ」と好いてくれている。
「Qが言うから間違いない!」
と、家に帰宅して早々に息を切らした赤ら顔で、あっちゃんは母に報告した。
「探しに行ってくる!」
15分ほどで帰宅。
「探しに行ってくる!!」
20分ほどで帰宅。
疑問に思い尋ねたところ、1回目の捜索はご近所の1学年上の幼馴染のお兄ちゃんと。2回目の捜索はQ君と。
なんともありがたいことに、2人とも習い事前の貴重な時間を使い、捜索に協力してくれたようだ。
「ほんまはもっと協力したいと言うてくれてる子がいたんやけどな、みんな用事や習い事があったんや!」と、あっちゃん。
なるほど。最近の子どもたちは忙しい。
さて、もう駄目かと腹をくくり始めた母は、お風呂に入ることにした。
なんせ夕方。これからが1番忙しい時間だ。いつものミッションに「病み上がりの長女えちゃまんに、ご飯を食べさせ、体拭き云々をして寝かしつける」オプションがついている。気になることがあっても、子どもの時間サイクルは待ってくれない。
湯船に浸かり思い浮かぶのは、ホワイトの走馬灯。
あっちゃんの襟首に小さな足をかけ、うとうととする小さな白いインコの姿…。我が家に来て1カ月ほどで、ずいぶんと育った。
真っ黒な大きな瞳はいつも澄んでいて、なんの疑いもなく。
家族の顔を覗き込むときの小首をかしげる仕草。
あぁ、ホワイト。ホワイトに我が家は狭すぎた。広い世界へ飛び立ちたかったのよ。仲間ができて幸せに…と、都合の良いシナリオを作り、子どもらへのプレゼンテーションを考えていると、
バンッッッ!
唐突に風呂場のドアが開けられた。
「ママ!ホワイト見つかったよ!」
真っ赤な顔のえちゃまんが、大声で叫ぶ。
情報網線上のママたち 〜迷い鳥 捕獲作戦〜
馴染みの公園で遊んでいる子どもたち。
「木登りの木」の下にいると、人懐っこい鳥が1羽。群れから離れて降りてきた。色が…白い。
この少年R君。近所の男の子だが、あっちゃんと特に仲良しなわけではない。
お互いの存在をなんとなく知っていて、誰々と仲良しな子やなとお互いに把握している関係。
そのとき、R君の頭によぎったのは、今朝見せられたインコの写真だ。
「あっちゃんの大切なインコがおらんくなった。見かけたら教えて」という母の言葉もすぐさま蘇った。
「ホワイトや!ホワイトがおる!!」
R君が叫ぶと、阿吽の呼吸の仲良しメンバーがすかさずに動いた。
虫取り網で捕獲!
「1本じゃ足りない!!」
「網、取りににいく?借りにいく?」
「大人に知らせな!」
「せやかて、逃さんように!!」
言うが早いか、普段からチームワークの良い彼らは、各々の役割分担を最速で導き走り出した。
1人は虫取り網を探しに、もう1人は母親に報告をしに、冷静なR君はホワイトが逃げないように、見張りをする。
家族ぐるみで仲良しなこのメンバー。
報告した少年のママからR君のママに事の経緯が伝わり、R君ママがすぐさまに電話をかけるも…
「あっちゃんママが電話に出ない!」
さて、お風呂のシーンに戻ろう。
「ママ!ホワイト見つかったよ!」というえちゃまんの言葉に、なんの冗談や。冗談やったら、えらいたち悪いぞ…。
と、見せられた鳥籠には…
なんと…
ホワイトの姿が!
「どないしたん!??」
R君ママが、我が家まで「鳥籠を持ってきて!」と、伝えに来てくれたのだ。
鳥籠の中、捕獲用にたっぷりと入れた餌を、ものすごい勢いでがっつくホワイト。外の世界は存外厳しかったようで、毛並みもほつれている。
R君はじめ、仲良し御一家を巻き込んで、なんと脱走から丸一日でホワイトは我が家に戻ってきたのだ。
少年Q君の証言
ホワイトが見つかった公園は、逃げた方向とは真逆に位置している。
風切羽を切られていたこと、まだ産まれて間もなかったことから、ホワイトは遠くまで飛べない。滑空がせいぜいだった。
そのため、私たちはホワイトが逃げた方角を中心に探していた。
その公園は家から1番近いが、完全に盲点だった。
田んぼに囲まれている見渡しの良い馴染みの公園。
「俺、家の前の田んぼでホワイト見たで!他の鳥とエサ食べに来てたで!」
と証言したQ君の家は、この公園の前側にある。
そう、Q君が見かけたのはまぎれもないホワイトだったのだ。
あっちゃんからこの話を聞いたとき、恥ずかしながら私は半信半疑だった。本当のことを白状するなら「疑い」がやや優先だった。が、あっちゃんがあまりにも信じるものだから、本当かもしれないという気持ちに傾いていたが、その公園を探しに行くことはしなかった。
「めっちゃ落ちた米食べてたで!」
というQ君の証言が、さらに事の経緯を裏付けている。
ご近所さんを巻きこみに巻き込んだ脱走事件。
子どもの洞察力と思いやり、相手を信頼することの大切さや、頼もしいママさんたちの気遣いに、改めて周囲に恵まれていると実感し、拍手喝采満員御礼の気持ちで、家族一同心より感謝申し上げます。
奇跡の白いインコ
さて、その後のホワイトの話を少し。
家の中ではもっぱら放し飼いで、家全部が「ホワイトのうち」だったホワイトは、なかなか鳥籠に戻りたがらないインコだった。
一夜の脱走で心境の変化があったのか、自ら鳥籠へ戻って行くようになった。というよりも、鳥籠から出たいとも思わなくなったようだ。
脱走した日の夜は、夏の終わりにしては寒く、小雨が降っていた。容赦ない自然の猛威や鳥界の実態を知り、鳥籠は安心・安全なホワイトだけの基地!という認識へ変わったようだ。
我が家に戻ってから数日、真っ黒なウンチが出続けていたことからも、食べ物に困ったことが伺えた。本来、健康なインコのウンチは、緑と白の小さな目玉焼きのような見た目をしている。
さて、お友達が欲しくて脱走をしたホワイト。
脱走以来、時折、家の窓に鳥たちがやってきて、ホワイトとおしゃべりしている姿を見かけるように。どうやら“お見知り合い”ができたようだ。
無事に帰還したホワイトは、ご近所さんから「奇跡のインコ」と呼ばれるようになった。
平穏な日々を取り戻した奇跡のインコ、ホワイト。
自らにさらなる試練が訪れようとしていることを、彼女はまだ知らない。
つづく
※学校での話等はあっちゃんの証言を元に執筆しています。多少事実と異なるかもしれないことはご愛敬、ということでご容赦ください。
※迷いペットのサイトには2つ登録しました。インコはとても多く登録されていて、見つからないことが多いそう。見つかった方は協力のお礼と参考に、捜索方法を報告する事になっています。もちろん報告させていただきました。
ライタープロフィール:めたせこいあ
小学校4年生(男の子)2年生(女の子)の二児の母。「人生って楽しい!」と思える子に育って欲しいと日々奮闘中。ゆる~くおおらかな育児に憧れるもいろいろ気になる…大雑把な気にしい。おふぃすパワーアップではスタッフPとして勤務中。
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