子どもの習い事の常に上位に上がる英語教育。国際社会と言われる世の中で生き抜くためには重要。自分が苦労した分、子どもには苦労させたくない。そのためにはなるべく小さいうちから始めなければ、と焦る親御さんは多いもの。
でもなぜ必要なのか、ちょっと落ち着いて考えてみませんか。
●なぜ英語が話せるようにしたいのか
不思議なことに、自分が英語を話せるようになりたいという親よりも、自分は話せないから子どもに話せるようになってほしいという親のほうが多い印象があります。
ではなぜ子どもには話せるようになって欲しいのか。
英語が使えないと学校や社会に出た時苦労する。
国際社会なんだから、英語は必須。
そんな理由でしょうか?
●費用対効果
生まれ育ったところの言葉は自然に話せるようになる。ならばなるべく小さいうちから語学学習を始めれば苦労なく話せるようになる。そのための早期英語教育。
確かに、言葉はシャワーのように浴びることによって身につきます。
意識しなくても、特に幼ければ幼いほど吸収力は高く、その環境に入れれば基本的には何語でも話せるようになるでしょう。でもその分忘れるのも早いです。
言葉はコミュニケーションツールなので使う必要性がないとその能力は衰えていきます。たとえ小さなうちに話せるようになったとしても、常に話す環境が必要。また日本語で考えてもわかるように、幼児の頃話していた言葉と学生時代、大人になってからと使う言葉、必要とされる文法能力は変化します。
常にアップデートが必要なんです。
それは幼児で話せるようになれば、自然と身につくのでは?と思うかもしれませんが、その程度加減はその子によると思われます。日本語にしても学年が上がるにつれてさまざまな教科で新しい言葉を覚えていきます。
幼児教育で英語を多少話せるようになっても、その後の学校での英語教育で単語数を着実に増やせるかどうか。そこに興味を持てるかどうか、必要性を感じるかで変わります。
CMで見るように、幼児英語教育を始めれば誰でも興味を持ってペラペラと話せるようになる、わけではないということをわかっておく必要があるでしょう。
●運動にも得手不得手があるように、語学学習にもある
それだけの手間暇お金をかけたらCMのようにうちの子もペラペラ英語を話せるようになる……それはあくまでも「かもしれない」です。
英語圏で生活しているとか、家の中の言語が英語でない限り教材を使うにしても、教室に通うにしても限度があります。その中でどれくらいのスキルが身につくのかは、どれくらいその子がそこに興味を持つかにもかかってきます。
面白いと思うかどうか、それはつまり向いているのかいないのか、にもなります。
先生と楽しく英語の歌を歌って踊ってゲームして、そこまではいいとして、そこからどんどん会話して、ペラペラ話すに繋がるのか。例えば引っ込み思案で大人しい子が、はたしてそれを楽しいと思うのか。その場の雰囲気に馴染めず、その時間が苦痛になり、英語アレルギーになる心配も。どの習い事にも言えると思いますが、楽しかったら続ければいいし、楽しくなかったらやめる勇気も必要かと。
スポーツにも向き不向きはありますし、日本語だって読書が好きとか嫌いとか、漢字がどうとか、算数、理科、社会、音楽などなど得手不得手は人それぞれです。
●留学、郷にいれば郷に従え、と逆カルチャーショック
英語を学ぶために親子での語学留学の記事を読んだことがあります。
確かにズッポリその環境に入るのが一番必要性も増しますし、近道かもしれません。ただ、その際には、欧米文化の洗礼もあると言うことを理解しておく必要があるでしょう。
ほんの短期のお試しであれば、お客さんとして上手に扱ってもらえるかもしれませんが本気で海外で生活するのであれば、いい意味での自己主張が必要になります。
日本のような島国と違い、常に他国との境界線を争った歴史のある国はまず自分の意見をいう、相手の意見を聞く、そこから昔は武力、もしくは言葉で戦う歴史を持ちます。と言うか、理解し合うためにお互い主張します。
そのため学校でも幼いうちから様々な教科で、自分で調べたり考えたりして自分の意見をもつ、それを大勢の前で発表する機会が頻繁にあります。
日本でも少しづつそういう話を聞くようにはなりましたが、海外では小学生の頃から当然のように日常的に行うところが多いです。それが苦手な子もいますが、基本的には自分の意見を持って伝える訓練を子どもの頃からずっと行い大人になります。
何も言わなくても察してね、は通用しません。
受け身でいては何も始まらないんです。
それについていけなくて、せっかく留学しても日本人でグループを作ってしまって結局何のために行ったのかわからない学生さんたちもよく聞きました。
かといって自己主張に慣れすぎると、日本に帰ってきてから暗黙の了解に戸惑うケースもしばしば。
中高生あたりで親の転勤で海外にいった場合、日本に息苦しさを感じて親が帰国しても現地に残ったり、一度日本に帰っても合わずに現地に戻るケースは多いです。
●文明の利器
ただ話せればいいだけなら今や凄まじい勢いで翻訳機が開発されています。
先日市販された自動音声翻訳機がTVで紹介されていましたが瞬時に望む言語に翻訳されて話してくれるので、すごい時代になったものだと思いました。
文章もスマホでもPCでも簡単に、自然な言葉で翻訳してくれます。
単純な意思の疎通だけなら、機械で十分な時代が来てます。
ではなんのために他言語を学ぶのか。
●海外の日本語熱
訪日の方と会う機会が多いのですが、今や日本語を不自由なく話せる外国人、珍しく無くなってきています。
きちんと勉強しているのでとても綺麗な日本語で、こちらが恥ずかしくなるほど。
で、なぜ日本語を学ぼうと思ったのか聞くと、アニメやドラマ、さまざまな文化などを通して日本に興味を持ち、もっと知りたいと思ったからとの答えが多いです。
つまり、好きになった物事の背景、日本という国のことを知りたいと思って日本語を学んだんです。
●語学は文化
言葉は単なる記号ではありません。そこには歴史や文化があります。
農耕がメインだった歴史の国は、自然や気候、特に雨に関する言葉が多いようですし、牧畜が盛んな国では馬や牛を表す言葉が多いと聞きます。
例えば日本語の「幸せ」って英語に訳すとまずhappyが出てきます。
でも感覚的にhappyって溌剌としているような感じで、幸せってもっとしみじみとしたものと感じるのは私だけでしょうか。
今年の干支の龍を英語にするとdragon。
日本で龍と聞くと雨を降らす龍神を思い浮かべると思いますが西洋ではdragonは火を吹く、どちらかというと倒す相手のイメージ。これは元々ちょっと無理がある訳だった気もしますがかなりの部分、言葉を訳すのはあくまでもA≒Bであって、A=Bにはならないんです。
その言語の裏にある歴史文化を知り、感覚を感じとること、それが他言語を学ぶことだと思います。
また言語は歴史の中で発展してきているので、その変換を学んでみると、つながりが見えてきて覚えやすいことも確かです。
●必要なのは「なに」を「どのように」伝えるか
英語を話せるようになれれば、それでいいじゃないか。本当にそうでしょうか。
「英語を話す」は目的ではなく手段です。
海外、特に欧米では学校でも社会でも、あなたはどう思うのかを問われることが多いです。
自分の考えや意思をしっかり持ち、伝え会う中でお互いを理解していく。個人差は確かにありますが、基本的にはディベートって日常な気がします。英語を話せても、伝えることがなければ意味がありません。
まずは伝える中身を持つことが大事。「なに」とは知識を得て、思考して、自分の考え、意見を持つこと。
そして「どのように」は「なに」を伝えるスキルを身につけること。話す力、つまり何をどう話すのか、中身と表現力をつけることが日本語でも英語でも、これからますます必要だと思います。
●自分は何者
またその「なに」の中には自分のルーツ、育った国、その文化、歴史、社会、などなどについても学んで欲しいです。
海外に行くと、ほとんどの人が初めて自分が日本人であることを意識すると聞きます。そして、自分があまりにも自分の国のことを知らず、聞かれても何も答えられず恥ずかしかったと。なので帰国すると日本のことを学び直すケースは結構多いです。
国際社会だからこそ、自分のバックグラウンドを知り自分のバックボーンをきっちり持って世界を渡り歩いて欲しいと思います。
●実践編、その中で、今おすすめすること
色々書いてはきましたが、幼児英語教育を否定しているわけでは有りません。
ただ過度な期待はしないでほしい。
子どもが楽しんでいるなら、それでいいくらいで思ってほしい。とにもかくにも、英語を嫌いにさせないでください。耳と発音は幼児の方が身につきやすいのは確かです。
でも発音に関しては、英語圏であっても英語、米語、オーストラリア語でもかなり違いますし、そのまた地域によって方言もあります。アジアで英語を公用語にしている国もそれぞれの発音があります。なので堂々と日本語訛りでもいいと思います。
むしろ日本人の英語は一つひとつきちんと発音しようとして話すので聞きとりやすいみたいです。
ただ確かに耳シャワーはお手軽、お得、それに、耳を鍛えると言語能力が上がるという最近の研究もあるようなので、英語の歌、YouTubeなど、子どもが嫌がらない範囲、興味を示す範囲でどんどん親しませてあげてください。
そしてせっかくなら子どものお守りにするだけでなく、たまには親子一緒に楽しんでみて。
親が楽しそうなら楽しいものだと子どもも思いますので。
そして読み書きできるようになったら、辞書の活用もおすすめ。
文などを訳す場合なら電子辞書が早くて楽ですが何か気になる言葉を探すなら、ぜひ紙の辞書を引いて見てください。
日本語でも調べたい言葉の前後に、新たな言葉との出会いが生まれます。
英語も語尾が変化するとどんどん違う単語が生まれているので新しい言葉を覚えるチャンスです。
和英英和が基本でしょうが、できれば英英辞典も。
子ども用の英英は親しみやすいようにキャラクター物もありますし、大人が読んでも面白いです。
ネットで簡単に手に入る時代ですので、探してみてください。
●実践編その2
大人のスキルアップには、まずは映画やTV番組を字幕版で見るのがお手軽。
ただ俳優によっては聞き取りにくいこともあるのでニュース番組もおすすめ。
BSでも英語字幕や日本語字幕付きの番組をやっています。万人にわかりやすくがニュース、はっきりしっかり発音されているので、比較的聞き取りやすいです。
それから絵本でも、昔の教科書でもなんでも音読してみるのがおすすめ。英語は日本語より口の動きがあるので、口周りのストレッチにもなるかも。
また日本語でも読んだことのある小説などを英語で再読も面白いです。
話の内容はわかっているので、知らない単語は飛ばしてもストーリーを追っていけるでしょう。赤毛のアンや足長おじさんなど読みやすいですし、アガサ・クリスティーもおすすめです。2、3行でもいいので、たまには日記を書いてみるのもいい。
伝えたいことをそのまま訳そうとするといちいち辞書が必要になるかもしれませんが、幼稚園や小学校低学年の子どもに伝えるような日本語に置き換えてみれば基本中学英語で大丈夫でしょう。
それをまた口に出す練習を続けると、話そうとすることを英語に置き換えやすくなります。
別に毎日続けなくても大丈夫、その気になった時にちょっとやってみる。
そこが大人の学びの極意。自由にできるのがいいんです。
訪日客が増えてきて、日常的に海外の人を生活圏で見かけるようになってきました。
いつ使うのかと思いながら学んでいた親世代と違って今の子どもたちは世界が身近な分学ぶ意義が見えやすく、意欲につながりやすいのでは。できれば親子で楽しみながら英語や他の言語にも親しんでそれを機会に自分の住んでいる国のこと、他の国のこと興味が広がっていければ楽しいと思います。
ライタープロフィール:レモンパイ
小学校5年から中学2年まで親の転勤でアメリカに滞在。英語力0の状態で現地校に。幸い現地は楽しく、帰国後もソフトランディングできたが、様々なケースも見聞きした。現在は時折に英語対応のお仕事を。